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膵疾患診療

膵臓は消化液である膵液を産生し、消化管に排出する外分泌機能と、血糖値などをコントロールするホルモン(インスリンやグルカゴンなど)を血液中に分泌する内分泌機能をもっています。

膵液は膵腺房細胞で作られ、分枝膵管という細い管から、主膵管という膵臓の真ん中を走る太い管(正常で1-2mm)に集まり流れて、十二指腸乳頭部から十二指腸内へ排出されます。

 

膵臓の主な診療疾患について

疾患分類 疾患内容
膵疾患

急性膵炎
慢性膵炎
自己免疫性膵炎 (AIP)

膵管内乳頭粘液性腫瘍 (IPMN)
嚢胞性膵疾患(MCNSCN、仮性嚢胞)
膵がん
膵神経内分泌腫瘍 (P-NET)

膵癒合不全

胆膵内視鏡については、内視鏡センターページ内の主な内視鏡検査(超音波内視鏡など)、もしくは主な内視鏡治療(ERCPなど)をご参照ください。

 

急性膵炎

膵臓の良性疾患に膵炎がありますが、急性と慢性では大きな違いがあります。

急性膵炎は、肺炎や胆管炎とは違い、細菌などによる感染症ではありません。膵臓で作られる膵液は強力なアルカリ性の消化酵素をもっており、その消化酵素が自身の膵臓を溶かそうとするのが急性膵炎です。 

日本での発症は年々増加傾向にあります。膵炎になる人は女性が70歳代、男性が50歳代で多く、比較的男性に多い傾向があります。

急性膵炎の原因として多いのは、アルコールと胆石(胆管結石)です。その他、薬によるもの、内視鏡的逆行性膵胆管造影検査 (ERCP) に伴うもの、先天的な膵臓の形の異常(膵管癒合不全)、脂質異常症(中性脂肪が高い)などが原因の場合もありますが、原因がわからない「特発性」や遺伝子異常が関わる 「家族性」 と診断される方もいます。

成 因
男 性 女 性
 アルコール ① 42% ③ 12%
 胆石(胆管結石) ② 19% ① 25%
 特発性 ③ 16% ② 24%

 ERCP

4% 7%
 膵腫瘍 3% 4%

2016年の全国調査

 

膵炎を発症すると、みぞおちを中心として背中にまで及ぶ激しい腹痛や嘔吐を引き起こします。身体所見と血液検査、造影CTにより診断を行い、同時に重症度の判定を行います。ほぼ全例が入院での治療が必要となり、治療の中心は絶食と大量の水分の点滴50kgの方で、13L程度)であり、状況に応じて炎症を抑える薬の坐薬(非ステロイド系抗炎症薬)、酵素を押さえる薬(蛋白分解酵素阻害剤)の点滴や、膵臓の周囲の感染を防ぐ目的で抗生物質を使用します。炎症が全身に及ぶことで血管内を循環する水分の減少(血管透過性亢進による血管内脱水)を生じ、早い時には数時間から1日で重症化することもある病気です。

 

胆石や膵石(膵管内にできる結石)が原因の場合には、結石の除去や膵液の流れを確保する治療(内視鏡的膵管ステント留置術)などを行わないと改善しないため、緊急内視鏡治療の適応となることもあります。

 

重症急性膵炎の場合は腎臓、肺、心臓など他の複数臓器の機能低下(多臓器不全)が生じることがあり、人工呼吸器や血液透析を含めた集中治療室での治療が必要になることもあります。そのため、重症化した場合に死亡率は10-30%程度といわれています。

また、膵炎が改善し退院できた後も、膵炎後の合併症として仮性膵嚢胞感染、被包化壊死、仮性動脈瘤破裂、膵機能低下などきたすことがあり、腫瘍が原因であった場合は炎症改善後の画像検査で初めて発見されることも少なくないため、退院後も外来での定期的な経過観察を行い、状況によっては治療のための再入院が必要となることもあります。

 

慢性膵炎

慢性膵炎は、急性膵炎のような急激な経過にはならず、年単位で徐々に進行していく病気です。原因はアルコールが最も多く、みぞおちや背中の鈍い痛みが続きます。膵臓が硬くなり、機能が低下することにより食べ物の消化や吸収がうまくいかなくなったり、血糖値のコントロールが悪くなり糖尿病を発症したりします。

進行を止めるには原因の除去が必要なため、アルコールが原因の場合は禁酒、断酒となります。また、対症療法(症状に合わせた治療)が中心となるため、痛みがあれば痛み止め、消化吸収が不良であれば消化剤、血糖値のコントロールが不良であれば糖尿病薬やインスリンが始まります。膵がんのリスクファクターの一つでもあるため、定期的な画像検査を行うことも必要です。

 

膵管内乳頭粘液性腫瘍(IPMN

膵臓に形成され、内部に液体が貯まった袋状のものを膵のう胞と呼びますが、その中でも膵がんへ移行(悪性化)する可能性があり、頻度が多いものに膵管内乳頭粘液性腫瘍(IPMN:Intraductal Papillary Mucinous Neoplasm)があります。

膵管(膵液の通り道)内に乳頭状に増殖する膵腫瘍で、粘液を産生することでのう胞状となることが多く、膵管が太くなることもあります。主膵管型、分枝型、混合型の3つのタイプがあり、主膵管型は原則的に悪性化する頻度が高いので、良性の状態であっても積極的に手術をおすすめしています。分枝型は、俗に「ブドウの房状」と言われ治療を必要としないものが大半ですが、年率1%程度の割合で膵がんを合併することがありますまた、IPMNの患者さんは、膵内のほかの場所にも膵癌ができる危険性が高いことが知られており、小さな分枝型IPMNでも定期的に検査を受けることが必要です。

     

    基本症状はなく、検診や他疾患の精査などで偶発的に、膵管拡張や膵腫瘍疑いとして指摘されることが多いです。初回指摘の場合は、造影CTMRIEUS(超音波内視鏡)を行い、現時点での悪性所見の有無を確認(下表を参照)します。それ以降は、だいたい半年に一度程度の頻度で来院していただき、造影CTMRIEUSの検査のいずれかを適宜組み合わせながら、慎重にフォローしていきます。残念ながら経過中に悪性所見を認めた場合には、精査のうえで外科に紹介することとなります。

     

    膵のう胞(膵管内乳頭粘液性腫瘍:IPMN)国際診療ガイドライン

     

    ガイドライン上は年単位での経過観察となる病変であっても、『膵臓の検診』という観点で、どのような病変であっても当院では半年毎のMRIや超音波による経過観察が望ましいと考えております。

      

    膵がん

    悪性疾患である膵がんは、特徴的な症状がないことから早期発見が難しい癌のひとつです。また、場所によっては、健診やドックで行うような腹部エコー検査では見つかりにくいことも、発見が遅れる理由の一つです。初発症状は腹部違和感や食欲不振、体重減少といった、他の病気でも起こるような症状がほとんどです。

     

    CT・MRIなどの画像検査で膵がんが疑われた場合には、超音波内視鏡ガイド下穿刺吸引法(EUS-FNA)にて組織を直接採取してくることで、確定診断が可能です。
    詳しくは内視鏡センターのページをご参照ください。

    膵がんと診断がついたならば、CT所見を参考に病期決定(staging)を行い、外科的手術により根治が期待できそうであれば消化器外科に紹介します。病期が進行した症例では、手術による根治が難しいので、当科にて化学療法(抗がん剤)を中心とした抗腫瘍療法を行ないます。

     

    膵臓の頭の方(膵頭部)にがんができると、膵頭部を貫くように走行している胆管が閉塞し黄疸が出ます、また、腫瘍の拡がりが十二指腸に及ぶと、食事が取れなくなったりすることがあります。膵癌の治療においては、手術や抗がん剤治療だけでなく、このような二次的な問題への対応が必要となります。胆管閉塞や十二指腸閉塞に対しては、内視鏡的に胆管ステント消化管ステント留置を行うことで改善が期待できます。

    詳しくは内視鏡センターのページをご参照ください

     

    当院における膵がん化学療法一覧 ※通常型膵管がんに限ります
    • アブラキサン+ゲムシタビン療法
    • ゲムシタビン単剤療法
    • ゲムシタビン+S-1療法
    • ゲムシタビン+タルセバ療法
    • オキサリプラチン+トポテシン+レボホリナート+5-FU (mFOLFIRINOX) 療法

     

    詳しくは薬剤科ホームページをご参照ください。

     

    抗がん剤には嘔気や下痢などの消化管症状、白血球や赤血球といった血球の減少による血液毒性、手足のしびれといった神経症状などの副作用がありますが、なるべく副作用を抑えながら最大の効果を得ることができるよう、医師・看護師・薬剤師などで構成される医療チームで協力して治療にあたります。

     

    【文責:消化器内科 部長 路川陽介】

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