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肝疾患診療

当院での肝疾患の診療は慢性肝炎から肝硬変、肝がんまで肝臓のあらゆる種類の病気の、すべての進行度の状態に対応しています。慢性的な病気で長期にわたる治療が必要になることが多い肝疾患の患者さんの診療で、一番大切に考えているのは、身体的・精神的・経済的に負担の少ない診療を行うことで、病気と付き合いつつ普段の生活をいかに制限や苦痛の少ない、明るく楽しく元気に暮らせるものにしていけるか、ということです。
当院で診療を行っている主な肝疾患は、B型慢性肝炎、C型慢性肝炎、肝硬変、肝細胞がん、転移性肝がんなどです。

 

肝臓の主な診療疾患について

疾患分類 疾患内容
肝疾患

ウイルス性肝炎ABC型肝炎)
脂肪肝(NAFLDNASH

自己免疫性肝炎(AIH
原発性胆汁性胆管炎(PBC)
肝硬変

原発性肝がん
胆石症(肝内結石)
肝血管腫
肝嚢胞
肝膿瘍

ウイルス性肝炎

B型慢性肝炎

B型肝炎は、B型肝炎ウイルス(HBV)の含まれる血液や体液が体内に入ることにより起こります。主に性交渉や出生時(母子感染)、輸血によるものが多く、年間約1万人の新規感染者がいるといわれています。

B型肝炎は、急性肝炎と慢性肝炎に大きく分けられ、急性肝炎を発症すると全身倦怠感、食欲不振、悪心、嘔吐、黄疸(目や皮膚が黄色くなる)などが出現し、経過によっては急激で激しい肝臓の炎症により急性肝不全(肝臓の機能の低下)を引き起こし、命に関わることもあります。

一方、慢性肝炎は症状がほとんどなく、数十年という長い経過で慢性的に肝臓に炎症が起き細胞が障害されることにより、肝臓が硬くなり機能が低下する肝硬変に至ります。そのためウイルスの除去が望ましいのですが、残念ながら完全に排除することができないことが分かっているため、HBV感染が判明した場合には可能な限りウイルスの活動を抑えることが重要です。

以前はウイルスの活動を抑えるために頻回な注射とその強い副作用に悩まされましたが、現在は多くの患者さんにおいて飲み薬で肝炎を鎮静化することができるようになりました。副作用の少ない薬も登場し、耐性(薬が効かなくなる)の出現も非常に少なくなりました。ただし、C型肝炎と異なり、多くの場合は薬を飲み続けなくてはならないのが現状です。
また、肝癌の発生や重症肝炎の発症、一度おとなしくなったウイルスがまた暴れだして強い肝炎をおこす再活性化など、まだ課題も残っています。当院でもB型肝炎の薬による治療や、抗がん剤の使用などにより免疫力低下している患者さんに対して必要な経過観察を適切に行っていけるよう、診療にあたっています。

 

C型慢性肝炎

C型肝炎は、C型肝炎ウイルス(HCV)の含まれる血液が体内に入ることにより起こります。他人の血液に触れることが多い医療行為が主な感染経路となりますが、違法薬物使用時の注射器の使い回しや入れ墨を彫るなどでも感染します。

C型肝炎は、A型、B型肝炎と違い急性肝炎を発症することが少なく、ほとんどの患者さんが慢性肝炎として経過します。症状はほぼないため、検診での血液検査で肝臓の数値や肝炎ウイルス検査で指摘されたり、腹部超音波検査で肝臓の形が変形していたりで発見されることがあります。肝硬変にまで至ったとしても、肝臓の機能の低下や肝がんを発症しない限り無症状の方も多くみられます。

C型肝炎の治療はここ数年で大きく様変わりしました。C型肝炎の治療が始まった約30年前は副作用の強い注射の治療で半年~1年の期間治療を継続していましたが、近年では飲み薬を2~3か月内服するだけで治療が終わります。
また当初、5~10%だったウイルス駆除率も近年では95%以上を達成しています。体に負担が少なく、高確率でウイルスを除去することができるため、肝硬変の患者さんやご高齢の患者さんでも治療が可能になりました。当院でも最新の治療薬を用いて、C型肝炎ウイルスの治療を行っています。

 

その他の慢性肝疾患

ウイルス性以外にも慢性肝疾患を引き起こすものとして、アルコールや脂肪肝、薬剤による肝障害、免疫の異常による自己免疫性肝炎(AIH)、原発性胆汁性胆管炎(PBC)などがあります。血液検査による特殊なマーカー(抗体)の確認や、肝臓の組織を摘出し顕微鏡で調べる肝生検(クリニカルパス入院)により診断し、適切な治療を行っています。

 

肝硬変

肝硬変は、慢性肝炎などにより肝障害が徐々に進行して肝臓が硬くなった状態(線維化)です。

初期は特に自覚症状はありませんが、原発性肝がんの発生母地となることや、肝臓の機能(蛋白合成、糖代謝、解毒など)が徐々に低下するため、定期的な経過観察が必要となります。

線維化が進行すると肝硬変の合併症である黄疸・腹水・浮腫(むくみ)・胃食道静脈瘤・肝性脳症などが出現します。腹水・浮腫や肝性脳症に関しては近年新規で用いることができる薬がいくつか登場し、当院でも積極的に導入し、治療を行っています。 また食道静脈瘤に対する内視鏡治療も積極的に行い、吐血の防止に努めています(詳しくは内視鏡センターのページをご参照ください)。

 

原発性肝がん

「原発性」とは元々その臓器にできた、という意味です。原発性肝がんであれば、元々肝臓にできたがん、となり、大腸がんや胃がんが肝臓に転移してできた「転移性肝がん」と区別する言葉です。わが国の原発性肝がんは肝細胞がんとよばれるものがほとんどで、少数の肝内胆管がんがこれに続きます。

慢性肝炎・肝硬変にともなう肝がんの早期発見のため、超音波、CTMRIなどを組み合わせて定期的に検査します。
治療法は、腫瘍の大きさや個数、腫瘍のできた場所、背景の肝臓の働きがどれくらい保たれているか、で決まります。そして、患者さんによって最適な治療が行えるよう、画像検査や血液検査により外科手術、ラジオ波焼灼療法(針を刺してがんを焼きます)、肝動脈塞栓術(がんにつながる血管を詰めます)、化学療法(抗がん剤による治療です)などの治療法を検討します。

 

肝細胞がんは基本症状がないため、他の病気の検査時に偶然見つかることが多いです。また、肝臓の表面にがんがあった場合、肝細胞がんが破裂しお腹の中に出血をするなど重篤な病態に陥ることもあります。その場合には前述した肝動脈塞栓術による止血を行います。当科では放射線科と協力して、24時間体制で血管内治療を行えるよう整えております(詳しくは放射線科のページをご参照ください)ので、慢性肝炎や肝硬変を一度でも指摘されたことがある方、肝細胞がんで経過観察中、治療中に強い腹痛があった場合には当院をご受診ください。

 

その他、検診で血液検査、腹部超音波などで肝臓の精密検査をすすめられた場合には、一度当科外来を受診しご相談ください。

 

【文責:消化器内科 部長 路川陽介】

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