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胆道(胆のう、胆管)疾患診療

肝臓の機能の一つとして消化液である胆汁の生成があります。肝臓で作られた胆汁は、胆管を通って肝臓の外に運ばれ、一時的に胆のうに貯められた後、再度胆管を通って十二指腸乳頭部から十二指腸内に排出されます。これらすべての胆汁の通り道を胆道(胆管、胆のう、十二指腸乳頭部と呼びます。それぞれ部位ごとに構造や機能が異なるため、かかる病気や症状も異なります。

 

胆道(胆管・胆のう・十二指腸乳頭部)の主な診療疾患について

疾患分類 疾患内容
胆道疾患

胆石症(胆のう結石、胆管結石)

胆石発作
急性胆のう炎

急性胆管炎

胆石性膵炎

原発性硬化性胆管炎 (PSC)
IgG4
関連硬化性胆管炎 (IgG4-SC)
胆のう腺筋腫症 (ADM)
胆のうポリープ

膵胆管合流異常症

乳頭部腺腫

胆道がん(胆のうがん、胆管がん、乳頭部がん)

胆膵内視鏡については、内視鏡センターページ内の主な内視鏡検査(超音波内視鏡など)、もしくは主な内視鏡治療(ERCPなど)をご参照ください。

 

胆道は、肝臓内の『胆管(肝内胆管)』、肝臓の外の『胆管(肝外胆管)』、胆汁を一時的に貯めて濃縮し、食事の刺激で貯めた胆汁を胆管に再度流す『胆のう』、胆汁を消化管に排出する『十二指腸乳頭部』に大きく分かれます。さらに部位により細かい名称があり、図示のみで説明は割愛しますが、その部位ごとでかかる病気や引き起こされる症状が異なります。

胆道の各部位の名称(日本消化器外科学会ホームページより引用・改変)

 

胆石症(胆のう結石、胆管結石)

胆道の良性疾患の一つに胆石症があります。胆石は胆道にできる石であり、胆のうにあれば胆のう結石胆管にあれば胆管結石と病名が変わります。

 

胆のう結石

胆のう結石は検診の腹部超音波検査で指摘されることが多くありますが、ほとんどの方が無症状であり、年1回の経過観察で問題ありません。しかし、胆のう結石が胆のうの出口(胆のう頚部)や胆のう管(胆のうと胆管をつなぐ管)に詰まると、胆石発作や急性胆のう炎を発症します。

 

胆管結石

胆管結石は、胆のうから落下してきた胆石と胆管内でできあがった胆石の2つがあります。無症状のこともあり、他の病気で腹部CT検査を行った際に偶然見つかることもありますが、胆汁の流れ道である胆管に詰まると、急性胆管炎を発症します。

 

また、胆石の中にはCTで写らない結石(CT陰性結石)があり、この場合にはMRIや腹部超音波検査、超音波内視鏡検査などで発見します。

 

胆石発作

胆のうの出口に結石が詰まると、心窩部(みぞおち)から右季肋部(右肋骨の下辺り)、右の背中の強い痛みが出ます。詰まりが外れると痛みが無くなるため、胆石による発作のような痛みの出現と改善を認めるものを胆石発作といいます。程度は様々ですが、救急車を呼ぶくらいの激痛となることも少なくありません。胆石発作を繰り返している方は、胆のう炎の発症や胆管への胆石の落下を起こす可能性が高いため、胆のう摘出術を行うことを強くお勧めしています。

 

急性胆のう炎

結石が出口に詰まっている状態が続くと、胆のう内に細菌感染を起こすことがあります。急性胆のう炎と呼ばれる状態で、右季肋部(右肋骨の下辺り)の痛みに加えて、高熱を認めるようになります。急性胆のう炎は放置すれば敗血症から死に至ることもあり、すみやかに治療を開始する必要があります。 

 

急性胆のう炎を発症した場合、初期治療(絶食、点滴、抗生剤・鎮痛剤)の後、早期に胆のう摘出術(腹腔鏡もしくは開腹)を行うことが望ましいです。しかし、何らかの理由で早期に胆のう摘出術を行えない場合、まずは内科的治療(胆のうドレナージ術=胆のう内の膿を出す処置)を行い、その後可能であれば胆のう摘出術を考慮します。

当科で行っている胆のうドレナージ術としては、内視鏡的経乳頭的胆のうドレナージ術(ETGBD)、超音波内視鏡下胆のうドレナージ(EUS-GBD)、経皮経肝胆のうドレナージ術(PTGBD)があり、患者さんの病状に合わせて最善のドレナージ方法を選択します。


 

図)急性胆のう炎の治療方針 

内視鏡治療の詳細については、内視鏡センターのページ内にある<内視鏡的胆のうドレナージ術>をご参照ください。

 

胆のうには他にも胆のう腺筋腫症、胆のうポリープといった良性疾患があります。腹部超音波検査のみでは悪性疾患との区別がつかない時もあるため、MRIや造影CT検査、超音波内視鏡検査(EUS)での精密検査が必要となることがあります。

 

急性胆管炎

胆管は正常の太さが5-7mm、出口である乳頭部になると2mm程度に先細りしているため、結石により胆管が詰まり、胆汁の流れが止まり、胆汁を作っている肝臓に負担がかかると肝障害(肝臓の数値が上がる)を引き起こします。さらに負担が強くなると胆汁の成分の一つであるビリルビンが血中に漏れ出し、眼や皮膚が黄色くなる黄疸を発症します。これを閉塞性黄疸と呼び、胆汁の流れがうっ滞し、肝臓への負担がかかると起こる症状の一つです。そして胆管が詰まることによる腹痛や、貯まった胆汁内で細菌が増殖すると発熱を引き起こし急性胆管炎という病気を発症します。

 

急性胆管炎は軽症から中等症、重症と3段階の重症度に分けられます。軽症の場合、抗菌薬治療で改善することもありますが、胆管炎の原因となる胆管結石の除去や胆管閉塞の解除が必要となります。これらは内視鏡を用いた治療がスタンダードとなっており、内視鏡的結石除去術や内視鏡的ドレナージ術 (EBD) が適応となります。詳しくは内視鏡センターのページをご参照ください。

ただし、急性胆管炎は重症化しやすい病気です。軽症として入院治療を行っていても中等症、重症となる可能性もあるため、症状の強い軽症の方や中等症以上の胆管炎の場合は、胆汁の流れを確保することを最優先とし、2回以上の段階的な治療を行っていきます

また、重症の場合には血圧や意識レベルの低下を伴い、急性閉塞性化膿性胆管炎 (AOSC) とも呼ばれます。菌血症(菌が血液中に移動し全身を回る)や多臓器不全(胆管以外の臓器の機能低下)まで至り、命に関わることもあるため早急な治療が必要となります。身体の状態によっては内視鏡治療が困難な場合もありますが、集中治療により全身状態を可能な限り安定させ、内視鏡治療を行えるよう努めます。それでも困難な場合には下図のように皮膚から肝臓の中の胆管にチューブを入れる、経皮経肝胆道ドレナージ術 (PTBD) を行うこともあります。


図)急性胆管炎の治療方針

 

胆石性膵炎

胆管結石が胆汁の出口である十二指腸乳頭部に詰まると、前述の閉塞性黄疸、胆管炎以外に急性膵炎を同時に発症することがあります。これは十二指腸乳頭部が膵液の通り道である膵管の出口であることが原因です。膵炎については膵疾患の項目を参照ください。

 

他にも硬化性胆管炎などの良性疾患があり、様々な要因で発症したり、悪性疾患との区別をつけたりするため、原因の精密検査が必要となることがあります。いずれも身体診察、問診、血液検査、腹部超音波検査、造影CT検査、MRI検査、超音波内視鏡検査(EUS)、内視鏡的逆行性胆管膵管検査(ERCP)など様々検査法を用いて、複合的に判断する必要があります。

 

胆道がん

胆道にも悪性疾患、いわゆるがんがあります。部位別で病名が変わり、治療方針も大きく変わってきます。胆道がんの場合は、下図のように部位が分けられます。

 

 

胆管は胆汁が通る道そのもののため、どの部位であってもここにがんが発生すると、胆汁の流れが悪くなります(胆汁うっ滞)。胆汁うっ滞が起きると、胆汁を産生している肝臓に負担がかかり、血液検査上で肝障害が出現します。さらに負担がかかると、胆汁の成分の一つであるビリルビンが血中に漏れ出し、黄疸が出現します。これを胆管が閉塞した(詰まった)ことによる黄疸、閉塞性黄疸と呼びます。

閉塞性黄疸があるということは、肝臓に大きな負担がかかっている状態です。肝臓は生命維持に重要な臓器となるため、黄疸がある状態ではがんの進行度(ステージ)に関わらず手術や抗がん剤治療を行うことができません。そこで、内視鏡を用いての胆管ステント留置術を行い、胆汁の流れを確保し黄疸の改善を目指しますまた、それと同時に腫瘍から組織を採取したり(胆管生検)、貯まった胆汁内に腫瘍細胞がないかどうかを確認(胆汁細胞診)したりすることで確定診断を行います。

※内視鏡検査・治療に関しては、内視鏡センターのページをご参照ください。

 

胆管ステントを留置する際に、胆管内に造影剤を流しレントゲンを撮ることで、がんの正確な位置や拡がりが確認できます。それに合わせて、造影CTMRIにより胆管の外側に腫瘍が拡がっていないかどうか(T、深達度)、リンパ節転移がどの程度あるか(N、リンパ節転移)、遠くの臓器への転移があるか(M、遠隔転移)を確認し、最終的な治療方針を決定いたします。

 

病期がある程度進んでしまい、手術適応がないと判断された場合は、化学療法の適応となります。手術と違って根治は期待できませんが、がんが増殖するスピードを少しでも抑えることは期待できます。化学療法を長くかつ安全に続けるためには、胆汁の流れが長期間確保できていることが重要となります。そのため、金属製の太いステントへの入れ替えや、複数本のステント留置などを行い、さらには、留置したステントにトラブルが起きた場合、黄疸の再出現や胆管炎を発症します。24時間体制で胆汁の流れを確保する処置を行えるよう体制を整えているため、いつでも受診ください。

 

当院における胆道がん化学療法一覧 ※十二指腸乳頭部がんは除く
  • ゲムシタビン+シスプラチン療法
  • ゲムシタビン+シスプラチン+S-1療法
  • ゲムシタビン単剤療法

詳しくは薬剤科ホームページをご参照ください。

 

抗がん剤には嘔気や下痢などの消化管症状、白血球や赤血球といった血球の減少による血液毒性、手足のしびれといった神経症状などの副作用がありますが、なるべく副作用を抑えながら最大の効果を得ることができるよう、医師・看護師・薬剤師などで構成される医療チームで協力して治療にあたります。

 

【文責:消化器内科 部長 路川陽介】

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